092: 宝林伝
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十巻(七巻のみ現存)

朱陵の沙門智炬(慧炬とも言う)の撰。貞元十七年(八〇一)に成る。初期禅宗史伝の書の一つ。従来は、『景徳伝灯録』『伝法正宗記』『大蔵綱目指要録』などによって知られ、日本では慈覚大師円仁の『承和五年入唐求法目録』にその名が見えるのみであったが、近年、わが京都の青蓮院、および中国の山西省趙城県広勝寺所蔵の金版大蔵経中より発見されて、その本文が紹介されるに至った。詳しくは「大唐韶州双峰山曹侯渓宝林伝」と言い、六祖慧能の南宗禅の由来を説いて、西天二十八祖·東土· Z祖の伝灯を主張し、師資相承の法信とし、従来の伝衣に代えて、初めて仏祖伝法偈を掲げる。智炬はこれを持って曹渓に行き、西天の勝持三蔵と協力して編集したと言うが、西天の伝灯を権威づけるための伝説で、記載の内容そのものももちろん史実と言いがたい。しかし、南宗禅が主張した一種の教判としては特色あるもので、中唐以後の仏教史に与えた影響はきわめて大きい。たとえば、五代の開平年間(九〇七-一〇)に至って、惟勁(雪峰義存の嗣で、のち南岳般舟道場に住した)が本書の後を継承して『続宝林伝』を著したと言い、 『祖堂集』『景徳伝灯録』以下の禅の灯史類がすべて本書の説を承けているほか、『義楚六帖』にもかなりの引用があり、巻首の釈迦牟尼仏章に掲げられる『四十二章経』は、一般のものときわめて相違していて、禅宗で用いられる『仏祖三経』のテキストの原型となった。